特定建設業許可での財務要件の判定は、直前決算。でも資本金は例外。

質問事例:前
質問:
この度、特定建設業許可を取得しようと準備していました。資本金の増資を定時株主総会で決議してしまい、直前決算日では資本金が2000万円を満たせません。次の決算日まで待たなくてはいけませんか?

目次

待たなくても申請可能

今回は、特定建設業許可の取得にあたっての財務要件(正式には「財産的基礎要件」)についてのご質問です。

質問の内容からすると、直前決算日において、財務要件のうち、「自己資本」「流動比率」「欠損比率」については問題なく要件を満たしているが、「資本金額」が2000万円に満たせていない状態であるということがわかります。

原則として、特定建設業許可の財務要件の判定は、直前決算日の貸借対照表(バランスシート)によっておこなわれます。
よって、定時株主総会で増資の決議をしたのだとすれば、これは、直前決算日以後の増資効力の発生という時系列になります。

質問者の方については、この点について、直前決算日では、資本金の要件が満たせていないので、次の決算日まで特定建設業許可の申請を待たなければならないのかという趣旨のご質問です。

これについて、建設業許可事務ガイドラインでは、以下のように記載されています。

 この基準を満たしているかどうかの判断は、原則として既存の企業にあっては申請時の直前の決算期における財務諸表により、新規設立の企業にあっては創業時における財務諸表により、それぞれ行う。
 ただし、当該財務諸表上では、資本金の額に関する基準を満たさないが、申請日までに増資を行うことによって基準を満たすこととなった場合には、「資本金」については、この基準を満たしているものとして取り扱う。

建設業許可事務ガイドライン 抜粋

上記の内容は、特定建設業許可の財務要件については、原則として直前決算日で判定する.

ただし資本金要件に限って言えば、直前決算日以降の日付で増資して要件を満たしたのならば、増資日以降(登記は必須)ならば、直前決算期で資本金要件を満たしているものとして扱う。

ということになっています。

よって、今回のお話では、次の決算日を待たずに特定建設業許可の申請が可能です。

特定建設業許可の財務要件

ここでは、特定建設業許可の財務要件(建設業法第十五条第3項)について、あらためて紹介します。

1.資本金額
2.自己資本額
3.流動比率
4.欠損比率

特定建設業許可の要件の内、「財務要件(財産的基礎要件)」については、上記の4つのすべての基準を満たす必要があります。
もちろん、いずれか一つが欠けていても財務要件を満たしているとは言えません。

以下、各要件について詳細を説明していきます。

なお、これまでご説明してきたとおり、原則としては直前決算日にて判定されますので、期中の残高試算表において、基準を満たすこととなった場合でも、次の決算日を待つ必要があります。

1.資本金額

資本金の金額については、2000万円以上が必要となります。

ただし、他の財務要件と扱いが異なる点があります。
法人においては、増資の効力が発生すれば、期中であっても基準を満たすことができる点です。
これについてが、今回の質問事例のポイントでした。

資本金額とは
株式会社:払込資本金額
持分会社:出資金額
個人  :期首資本金額

2.自己資本額

自己資本の金額については、4000万円以上が必要となります。

自己資本とは
法人:純資産合計額
個人:(期首資本金+事業主借勘定+事業主利益)-事業主貸勘定+利益留保性引当金+準備金

3.流動比率

流動比率については、75%以上が必要となります。

流動比率とは
(流動資産合計÷流動負債合計)×100

4.欠損比率

欠損比率については、20%以下であることが必要となります。

こちらの要件については、繰越利益剰余金がプラスの場合や、内部留保・利益準備金・その他利益剰余金の合計額が繰越損失(繰越利益剰余金がマイナス)の額を上回っていれば要件を満たしますので、計算は不要です。

欠損比率とは
法人:(繰越利益剰余金の負の額-(資本剰余金+利益準備金+その他利益剰余金(繰越利益剰余金を除く)))/資本金×100
個人:(事業主損失-(事業主借勘定-事業主貸勘定+利益留保性の引当金+準備金))/期首資本金×100

特定取得以後の財務要件の維持

特定建設業許可を取得した以後でも、財務要件については、注意が必要です。

建設業許可の更新

この財務要件については、許可以後においても常に条件を満たしていなければならないというものではありません。

 本号の基準に適合するか否かは当該許可を行う際に判断するものであり、許可をした後にこの基準を適合しないこととなっても直ちに当該許可の効力に影響を及ぼすものではない(法第15条第3号の基準について同じ。)。

建設業許可事務ガイドライン 抜粋

しかし、当該建設業許可には、5年間の有効期限が設けられています。
この5年後の建設業許可期限満了に伴う更新の際には、財務要件の判定を再度受けることになります。

厳密に解説すれば、更新申請時において終了している直近の決算日の財務内容で判定されます。
ここはご注意ください。

更新時に財務要件を満たせない場合

直前決算日の財務要件が許可基準を下回るようなら、どのような選択肢があるのでしょうか。

財務要件を満たせない場合の選択肢
 許可を失効させる
 特定許可から一般許可に移行させる
 財務改善かつ決算日の変更

それぞれの選択肢についての説明は、今回は割愛させて頂きます。

許可取得後についても、この更新申請の直前期の決算には十分に配慮が必要となるのでご注意ください。

質問に対する回答例

ご担当者 様
以下、回答申し上げます。
御社におかれましては、特定建設業許可申請を今年度の決算終了まで待つ必要はございません。
すでにご存じかとお見受け致しますが、財務要件については原則、直前決算の貸借対照表にて判定されます。
しかし、「資本金額」についての要件は、例外的な取り扱いをされます。
他の財務要件を直前決算にて満たしている場合において、この度の定時株主総会にて決議承認された増資により、資本金の要件を具備するようでしたら、取り扱いとしては、増資後においては要件具備したものとされます。
つきましては、ご質問の回答としまして、増資の完了後は特定建設業許可申請が可能です。
なお、他の要件は問題なく基準を満たされていると仮定して回答させて頂きました。

このような回答でいかがでしょうか。

建設業許可の専門家
リンクス行政書士事務所

牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においては、何よりお客様の話を聞くことを重視し、最善の対応を常に心がけている。二児の父

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牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においてはヒアリングを重視する。二児の父

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