弊社は建設業許可の一般を取得しています。区分「一般」と「特定」の違いがよくわかりません。受注できる工事金額にどんな違いがありますか。受注できる範囲を知りたいです。
建設業許可を知る方で、「一般」の上位が「特定」なんでしょう。ぐらいの認識の方も多いはず。
今回のご質問は、建設業許可の「特定」が必要な工事について事例を交えて解説します。
「特定」が必要な工事を知ることで、「一般」で受注できる工事の範囲がわかります。
令和5年1月1日より建設業法施行令の一部を改正する政令(令和4年政令第353号)が施行されました。これにより特定建設業許可の必要な工事の範囲が改正されました。
本記事は政令改正以降の基準記載金額で記載しております。
>>詳しくは「令和5年1月1日の建設業法施行令改正施行。ポイントは、特定建設業許可の範囲変更と配置技術者の専任配置基準の変更。」
目次
建設業許可の「一般」と「特定」
「一般」と「特定」の違い
「特定」を取得している建設業許可業種においては、「一般」で出来る工事はすべて受注することができます。その意味では、「一般」の上位が「特定」という認識はあたっています。
しかし、ご質問にあるとおり「受注できる工事金額にどんな違いが…」というのは、「一般」と「特定」の違いを考えるときに正確な判断基準ではありません。
正確には、元請となった時に、下請へ外注できる金額の違いが「一般」と「特定」の違いです。
つまり、「一般」と「特定」で、受注金額を制限されているわけでは無い。下請契約の金額が制限されているのだ。という点が理解の一歩目です。
特定建設業の許可を受けた者でなければ、その者が発注者から直接請け負つた建設工事を施工するための次の各号の一に該当する下請契約を締結してはならない。
建設業法第16条
判断のポイント
基本として、500万円以上(建築一式においては1500万円以上等)の工事を受注するには建設業許可が必要なのはご存じと思います。
通常、建設業許可には「一般」と「特定」という区分が有り、「特定」が必要な工事以外は「一般」で受注することが可能という説明がなされます。
「特定」が必要な工事か否か。判断するポイントは2つあります。
この2つのポイント両方を満たす工事は「特定」の建設業許可を取得しておかなければ受注することができません。
「特定」が必要な工事の判断ポイント
1 施主から発注を請ける元請業者の立場
2 総額4500万円以上の金額を下請け業者へ外注する
施主から発注を請ける元請業者の立場
「特定」は施主と工事契約を結ぶ元請業者のみに必要とされる区分です。
言葉としては、自社の上請け業者を「元請」と表現することがありますが、ここではあくまで施主と契約している元請建設業者という意味です。
したがって、一次下請けや二次下請けのみを請負う建設業者は、前提として「特定」建設業許可は不要です。
総額4500万円以上の金額を下請け業者へ外注
現行法上では、元請の立場で、4500万円以上(建築一式においては7000万円以上)の金額を下請建設業者に外注する場合には「特定」が必要となります。
ここでは、「総額」。つまり、複数の下請け業者を使用する場合では、その下請け金額の総額で判断します。
また、元請としての工事でも、4500万円未満で下請け業者に外注する場合は、「一般」の建設業許可で足ります。
ちなみに、この「特定」に関する判定において、基準の4500万円については、支給された材料などの価格は含まれません。(建設業許可が必要な工事か否かの500万円の判定には、支給された材料の価額も含めるので、ここの点は異なります。)
発注者から直接請け負う一件の建設工事につき、元請負人が4,500万円(建築一式工事にあっては7,000万円)以上の工事を下請施工させようとする時の4,500万円には、元請負人が提供する材料等の価格は含まない。
建設業許可事務ガイドライン 抜粋
特定建設業許可が必要?不要?
なかなか「特定」については、解説文だけでは理解がむずかしいかと思いますので、ここからは、事例を踏まえて説明してみます。
事例1:基本事例
わかりやすい事例から考えましょう。
この事例は、御社が施主との工事請負契約において1億円の工事を受注し、かつ下請建設業者との間に6,000万円の下請工事請負契約を締結しています。
これは、特定建設業許可の必要な工事です。よって、見積・受注するためにはあらかじめ「特定」建設業許可の取得が必要です。
特定建設業の判定のポイント、①「元請」の立場で、②「下請業者」へ4,500万円以上外注していますので、判定は特定建設業許可の必要な工事ということができます。
事例2:複数の下請業者
この事例では、御社が施主との工事請負契約において1億円の工事を受注し、かつ下請建設業者の3社と、それぞれ2,500万円、1,000万円、2,500万円の下請工事請負契約を締結しています。
これは、特定建設業許可が必要な工事です。よって、見積・受注するためにはあらかじめ「特定」建設業許可の取得が必要です。
御社が、元請工事業者という点は、疑義が無いでしょう。
では、下請業者との下請工事請負契約を見てみます。各下請業者に、それぞれ請負金額2,500万円、1,000万円、2,500万円とあり、判定基準の4,500万円以上ではないように見えます。
しかし、判定基準においては、この各社の下請負金額を合算した7,000万円で判定することになります。
つまりは、4,500万円以上の下請工事請負契約となるので、「特定」が必要な工事と判定することができます。
分割することで「特定」から逃れようとする試みはできません。という事例です。
事例3:材料仕入れ
この事例では、御社が施主との工事請負契約において1億円の工事を受注し、かつ下請建設業者の2社と、それぞれ1,000万円、2,500万円の下請工事請負契約を締結しています。加えて、材料仕入れのために、材料問屋との間に材料仕入れの売買契約を2,000万円締結しています。
これは、特定建設業許可が不必要な工事といえます。よって、「一般」建設業許可で見積・受注が可能です。
御社が、元請工事業者という点は、疑義が無いでしょう。
下請け業者2社との下請工事請負契約が合算で3,500万円となります。特定建設業の判定では、工事請負契約を判定の対象にするため、問屋との材料仕入れ契約(売買契約)は、判定の対象金額に含まれません。
ちなみに、売買契約と同様に建築士事務所へ設計のみを発注する(設計業務委託契約)場合も、この判定金額から除かれます(ただし、施工が含まれている場合は一つの契約として、下請工事請負契約と考えますので注意)。
判定はあくまで下請工事請負契約に基づく金額で判定します。
事例4:一次下請業者
この事例では、御社が元請業者との下請工事請負契約において3億円の工事を受注し、かつ下請建設業者と1億円の再下請工事請負契約を締結しています。
これは、特定建設業許可が不必要な工事といえます。よって、「一般」建設業許可で見積・受注が可能です。
御社が、元請工事業者ではないので、その時点で「特定」建設業許可は不要で有り、「一般」建設業許可で受注が可能です。
金額に惑わされてはいけません。「特定」はあくまで元請業者に必要な許可区分なのです。
事例5:金額の大きい工事でも
この事例では、御社が元請業者との下請工事請負契約において5億円の工事を受注し、かつ下請建設業者と2,000万円の再下請工事請負契約を締結しています。
これは、特定建設業許可が不必要な工事といえます。よって、「一般」建設業許可で見積・受注が可能です。
受注金額の大きさに惑わされてはいけません。「特定」はあくまで下請建設業者との下請金額の合計で判定します。今回の場合は、4,500万円未満ということになりますので、「特定」は不要です。
特定建設業許可の要件
ここでは、簡単に「特定」の許可要件を紹介します。
「特定」を取得した業者は、元請業者として下請業者を監督しながら比較的重要な工事を担うことになりますので、「一般」よりは厳しい基準となっています。
理解すべきは次の3点です。
【特定建設業許可 要件ポイント】
1 常勤役員等(「一般」と同じ)
2 専任技術者
3 財産的基礎要件
常勤役員等(「一般」と同じ)
常勤役員等(いわゆる「経営業務の管理責任者」)の要件は、「一般」建設業許可と異なることはありません。役員(取締役等)の建設業での経営経験5年で満たす条件(役員1名で要件を満たす場合)や、役員と直属の補佐する者(財務管理・労務管理・業務運営)のグループ(経営体制)で要件を満たす方法などがあります。
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専任技術者
専任技術者要件については、基本的には1級の資格(一級建築施工管理技士・一級土木施工管理技士 等)を取得した人員を選任することが条件となります。
「指導監督的実務経験」を加えて「一般」と同じように実務経験や資格で取得する方法もありますが、この「指導監督的実務経験」の認定が非常に難しいため、こちらを利用して許可を取得するケースは非常にレアといえます。
なお、「特定」の専任技術者要件を考える上で、指定建設業6業種(土木一式、建築一式、電気、管、鋼構造物、舗装、造園)については、その重要性から「指導監督的実務経験」を利用しての取得は認められていません。
財産的基礎要件
「特定」では、直前決算時点の財務諸表(貸借対照表)で、財産的基礎要件を満たしている必要があります。
「欠損比率が20%以下であること」「流動比率が75%以上であること」「資本金が2,000万円以上」「自己資本が4,000万円以上」というのが条件になります。
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まとめ
元請工事にご注意
建設業許可「一般」を取得している業者にとって、どの範囲までが受注可能なのか理解しておくことは非常に重要です。
「特定」は、受注金額というより、元請業者として下請業者へ外注する場合の金額に注意が必要であるという点、ご理解下さい。
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