株式会社で建設業許可を取得している業者(または、許可を取得しようとしている業者)は取締役の任期について注意が必要です。取締役の任期切れは、建設業許可にも影響を与えるということを今回お伝えしていきます。
会社法において株式会社の取締役については原則2年の任期(非公開会社については10年まで延長可)と定められています。この取締役の任期切れが、建設業許可に影響を及ぼします。ついては、任期に関する正しい理解と、任期の管理が重要です。
目次
建設業許可でトラブル
まずは、役員の任期切れが建設業許可に与える影響について説明したいと思います。
許可の更新ができない
建設業許可の更新の際に、許可行政庁の担当審査官から役員の任期切れについて指摘されるケースは意外と多いのです。建設業許可の有効期限は5年間です。新規にて許可を取得する際にはもちろん役員の任期が切れていれば許可が下りることはありませんが、取得してからの5年の内に任期が切れてしまうことがあります。
建設業許可の更新申請の際には、会社の謄本(履歴全部事項証明書)を提出することになっています。
審査官は、現状の役員が適正に届け出されているかをチェックするとともに、この役員の任期が満了していないかも確認します。ここで、任期切れが確認できれば、更新申請が受け付けられないか、または早々に必要なお手続きを行うべき旨の指導を受けることになります。
建設業許可では許可期限(5年)と取締役任期の管理が必須。
十分な確認が必要です。
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経営経験が認められない
建設業許可において役員の任期切れは経営経験の裏付けに影響を与える場合があります。建設業許可の要件の一つに「常勤役員等」があります。当該要件を満たす条件として経営経験が必須となりますが、例えば株式会社での取締役経験がこれに該当します。
しかし、この役員経験の期間に役員の任期が切れた状態であった場合はどうでしょう。
これについては、各管轄行政庁にて取り扱いは異なりますが、原則として「認められない」とされつつ、認められるためには追加資料の提出を求められる場合があります。本来ならば問題なく認められるはずの経験でも、追加資料が提出できずに要件として証明ができなかったというケースは実際に経験があります。
役員の任期の考え方
役員の任期とは
ここでは、重要な役員の任期について説明します。
まず、大前提において、役員任期が有る・無しを確認しましょう。
個人事業主:任期なし
有限会社 :任期なし
株式会社 :取締役・監査役 任期有り
合同会社 :任期なし
上記の通り、任期を考えるに当たっては、「株式会社」が該当します。個人事業主や「有限会社(特例有限会社)」、合同会社では、役員の任期はありません。
役員任期を管理が必要なのは株式会社。有限会社や合同会社は不要。
会社法では「株式会社」の取締役は役員任期は原則2年(会社法第332条)、監査役は原則4年(会社法336条)とされています。ただし、非公開会社においては、これを最大「10年」に設定することができます。
この役員任期は、株式会社においては定款(ていかん)に記載されます(相対的記載事項なので記載が無い場合においては原則どおり取り扱います。)。
なお、建設業許可事務において、監査役は審査対象の役員に含まれていませんので、肝心なのは、取締役の任期ということになります。
後に解説しますが、この取締役の任期は単純に「○年間」というわけではありません。
定款上の記載では「選任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」となっています。また、途中就任の場合には、前任者の任期を引き継ぐなど、その管理については、多少の知識が必要です。
役員の任期とは、文字通り株式会社の取締役の任期を定めたものです。
任期が満了すれば、任期満了による取締役「退任」ということになります。「退任」ということになれば当然取締役では無くなります。引き続き取締役を続ける場合には株主総会において再任の決議をし、これを法務局において登記する必要があります。(これを「重任」(じゅうにん)といいます。)
役員任期の確認方法
株式会社の取締役の任期はいつまでかを確認する方法を説明します。
任期の確認に必要なモノ
1 定款
2 会社の謄本(履歴全部事項証明書etc)
定款においては、取締役の任期についての条文を確認します。具体的には「選任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」というような記載があるはずです。
会社の謄本(履歴全部事項証明書または現在事項証明書)については、任期の起算点を確認するために使用します。
定時株主総会で任期満了
定款の規定「選任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」について説明します。
上記の図は、株式会社を設立してから10年たった場合の取締役の任期満了日に関する説明です。
この場合、役員の任期を考えるうえでの起算日が設立日となっています。そして、その10年後の日付において、決算が終了している最終決算日は令和3年6月30日となります。
一般的には定時株主総会は決算日より2か月以内に開催されることになっています。よって令和2年7月~令和3年6月の年度の定時株主総会は8月(条件では毎年8月20日に開催されている。)となり、当該定時株主総会の終結にて取締役の任期満了となり、当該定時株主総会で取締役に関する決議がなされなければ、取締役の任期切れという事態になります。
任期の起算点
取締役の任期の起算点については、原則以下の3つのいずれかです。
取締役の任期の起算点
(1)設立日
(2)前回の重任日
(3)前任者の就任日
(1)設立日
株式会社を設立してまったく役員の変更が無い場合には、設立日が起算点となります。
(2)前回の重任日
任期が満了した取締役が引き続き取締役を続けることとなる場合のことを「重任(じゅうにん)」といいます。重任は、任期満了を原因として発生しますので、重任されれば再度その日から人気のカウントがはじまります。
(3)前任者の就任日
これも定款に記載されているかと思います。他の取締役の任期の途中で新たな取締役が就任する場合の対応は、一般的には既存の取締役の任期に同調するかたちとなります。よって、任期満了は既存の取締役と同日に訪れます。
任期切れの場合
取締役の任期が切れたことについては、法務局からお知らせが来るわけではありません。
気づかないうちに任期を切らしてしまったままになっていた場合はどうなるでしょう。
これは、後任が選任又は再任されるまでは「権利義務取締役」という扱いになります。任期が切れている状態でも、とりあえず前任の取締役が権利義務を引き継ぐこととなります。
しかし、これは暫定的な扱いにすぎませんので、金融機関窓口や建設業許可申請等各種お手続きの際に指摘されることが多いのです。
任期満了に必要な手続き
任期満了になっている状態で必要なお手続きは法務局での登記手続きです。
法務局において手続する必要があります。法務局のホームページには手続きの事例が掲載されており、また窓口では相談業務に応じていただけます。自身でのお手続きがむずかしい場合には「司法書士」の先生に依頼することも可能です。
お手続きのパターンにはいくつかあります。これにより登記される内容が異なります。
重任の場合:
取締役の重任決議を定時総会で承認し、2週間以内に登記手続きを行います。
重任の登記懈怠(とうきけいたい)の場合:
取締役の重任決議を定時総会でしたものの、登記を忘れていた(2週間以内)場合です。通常の重任のお手続きとかわりません。ただし、登記手続きは遅れたものの定時総会で重任された旨を登記しますので、あまり遅延期間が長い場合には、代表取締役に罰金が科される場合があります。
選任懈怠(せんにんけたい)の場合:
取締役の任期切れに気づかず、なにもしないまま現在に至ってしまったという場合には、取締役は定時総会で一旦全員が退任となります。その後改めて選任した旨を登記します。これについても、あまり遅延期間が長い場合には、代表取締役に罰金が科される場合があります。
任期の管理
取締役の任期を10年に設定している場合には、10年に一度の登記手続きとなるため、うっかりと手続きを忘れてしまうこともあるかと思います。(任期の管理は自社でおこなう必要があります。)
ここで大事なのが、役員任期を確認する習慣をつけることです。
役員任期の満了は定時株主総会の終結のタイミングです。
中小企業では定時株主総会の体をなしていないかもしれません。しかし、毎年必ず法人税の確定申告は行います。定時株主総会とは、決算書の内容に問題ないか株主が決議する場です。
申告を税理士さんに依頼している方であれば必ず最終的な財務諸表の数字を確定させる打合せがあるはずです。
このタイミングを定時株主総会と見立てて、毎年登記を確認してはいかがでしょうか。税理士さんにも相談に乗っていただいてもよいかもしれません。
また、建設業許可事務を行政書士に依頼しているのであれば、毎年の決算変更届を依頼する際に相談してはいかがでしょうか。役員の任期は建設業許可にも直結しますので、良い相談相手かと思います。
ただし、あくまで登記手続きの依頼先は司法書士の先生となりますので、注意が必要です。
まとめ
役員任期に注意
今回は、役員の任期について解説です。平成18年の法改正により、譲渡制限会社は取締役の任期を最大10年に設定することができるようになりました。10年に一度の登記手続きなり手間が省けた半面、登記懈怠・選任懈怠の問題が頻発しています。建設業許可業者の方でもこの役員任期は非常に重要な事項の一つよいえます。
ぜひもと役員任期を適正に管理し、建設業許可を適切に運用しましょう。
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