【東京都知事許可】全員在籍出向で社会保険適用除外。建設業許可取得が可能?

建設業許可

従業員・役員が全員、出向元からの在籍型による出向で、かつ出向先の申請法人については社会保険適用事業所とせずに許可取得は可能なのか。

在籍出向での許可取得の相談は多くありますが、ときわけ今回は特徴的な上記の条件について解説します。

なお、在籍出向での建設業許可申請に際しては、各都道府県により添付が必要な資料が異なることから、本記事についてはご要望の多い「東京都知事許可」においての説明とさせて頂きました。

目次

許可は可能。でも、運用が無理。

結論から申し上げれば、在籍型出向による建設業許可の取得は可能です。

ただし、建設業許可を持って建設業を営もうとする場合、社会保険が未適用であると建設業許可が運用できないのです。

なぜなのか。

以下、順を追って解説していきます。

在籍出向で許可を取得

在籍出向とは

まず、在籍出向について、確認しておきます。

在籍出向という法律用語が無いので、以下のように転籍出向と比較して定義させて頂きます。

在籍出向
出向契約に基づいて、出向元に所属を置きながら出向先において就業すること。給与は、出向元から支払われる。故に社会保険については、出向元において適用となる。なお、出向先は、出向元に対して出向費用を支払う。
転籍出向
出向契約に基づいて、出向先に籍を移して出向先にて就業すること。給与は、出向先から支払われる。故に社会保険については、出向先において適用となる。

「在籍」とは出向元に籍を残したままという意味です。
就業先は、いずれも出向先ではありますが、給与の支払者・社会保険の適用について異なると理解ください。

全員在籍出向が要望される理由

では、なぜ全員転籍出向が要望されるのでしょうか。
以下、考えられる理由を揚げます。

理由1 従業員の所属意識

出向と聞くと非常にネガティブな印象を受ける方もいらっしゃいます。
仮に親会社から子会社に社会保険の適用がかわるのとなれば、ご家族も心配するかもしれません。

経営者側にとって、意図せず従業員のモチベーションを下げてしまう可能性もあります。
よって、在籍出向を選択肢として要望される業者は多くあります。

理由2 手続きの煩雑さ

出向先から給与を支払うことで、出向元とは別の系統で給与計算を処理しなくてはならなくなります。
また、当然出向先は社会保険の強制適用事業所となるわけですから、社会保険関連の事務も発生します。

はっきりいって、手間が増えるのは避けたいという思惑があるのだと考えます。

在籍出向の常勤性

在籍出向での許可取得を選択したとして、最も障壁となるのが、常勤性です。

建設業許可の要件では、2つの人的要件があります。
そして、いずれの人定要件についても、常勤が条件となります。

建設業許可の人的要件
常勤役員等(経営業務の管理責任者等)の常勤
専任技術者の常勤

通常の場合、常勤性の確認は、「健康保険証」で行われることになります。

しかし、在籍出向の場合、社会保険(健康保険・厚生年金)は、出向元において適用されているため、健康保険証には、出向元の名称が記載されます。

これでは、健康保険証を提示しただけでは、出向先に常勤しているか確認できないのです。

そこで、東京都では、在籍出向の際の常勤性の証明方法について、以下の記載があります。

出向契約書・発令通知書等で該当者、出向元・出向先・出向期間の確認できる資料、または該当者の氏名が記載された、申請時点における3ヶ月分の出向負担料に関する出向元・出向先間の請求書及び入金資料等の資料が必要です。

東京都 建設業許可申請・変更の手引き 抜粋

つまりは、出向契約書または、3ヶ月分の出向費用の流れが確認できる資料ということになっています。

しかし、実質いずれも提出を要請されますので、出向開始から3ヶ月実働を経ての申請となります。

この方法で、建設業許可の取得は可能となります。

社会保険の適用除外

現在、建設業許可を取得するためには、適法に社会保険を適用していなければなりません。

ただし、全員在籍出向の場合は、出向先から支払われる給与は0円ですので、社会保険の適用事業所となることができません。

よって、株式会社でも、社会保険適用除外で建設業許可を申請することとなります。

社会保険の適用については様式第七条の三「健康保険等の加入状況」において「2 適用が除外される場合」を記載することとなります。

建設業許可が運用できない理由

配置技術者制度の壁

東京都知事許可において、従業員・役員が全員在籍出向にて建設業許可が取れたとしましょう。

そして、建設業許可業者となった御社は、すぐに法律上の義務が課されます。

それが、「配置技術者制度」です。

建設業許可業者は、現場ごとに配置技術者(主任技術者・監理技術者)を選任して配置しなければなりません。

この配置技術者は「直接的かつ恒常的な雇用関係」が求められ、かつその「直接的かつ恒常的な雇用関係」に「在籍出向」が認められていないのです。

※ただし、例外として認められる場合
・営業譲渡・会社分割の場合3年以内の出向
・国土交通省が認定した企業集団に所属する親会社から子会社への出向
・国土交通省が認定した企業集団(連結決算等)の親子会社間の出向

 建設業許可の人的要件では、在籍出向が認められる。

 配置技術者制度上の配置される技術者は、在籍出向が認められない。

このような取り扱いです。

結果として社会保険適用が必須

よって、実際に建設業許可を取得して、現場に配置技術者を配置しようとした場合、社会保険の適用除外の法人では、配置できる技術者がおらず、結果として、運営できない。ということになります。

実際の施工は下請け業者にまかせるから。
いえいえ、建設業許可業者は、丸投げ禁止ですので、配置技術者による現場監理は、必須です。

逆に言えば、社会保険を配置技術者に適用すれば、建設業許可業者として会社運営が可能ということです。

まとめ

在籍出向でも許可はとれるが

今回の記事では、「全員在籍出向」かつ「社会保険適用除外」で許可は取得可能かというお話でした。

結果として建設業許可の取得は可能です。

ただし、建設業許可業者としての事業運営はできないと考えます。

しかし、今回のお話こんな場合でしたら活用できます。

在籍出向を有効利用した場合
出向先が準備段階である。
先行して出向先にて建設業許可を取得しておいて、建設業許可取得後に本格的な工事案件を受注したい。
故に、在籍出向者だけで許可取得を進める。
許可取得後は、技術者を出向先の社会保険に加入させ、適法に事業運営していく。

許可取得の方法のひとつとして、ご参考までに。

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建設業許可の専門家
リンクス行政書士事務所

牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においては、何よりお客様の話を聞くことを重視し、最善の対応を常に心がけている。二児の父

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建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においてはヒアリングを重視する。二児の父

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