質問:
取締役である妻が、二級建築施工管理技士の資格を取得しました。そこで、業種追加を考えています。妻の役員報酬は月8万円で扶養の範囲内ですが、常勤で働いてもらっています。扶養のまま専任技術者になれますか?
建設業許可の要件として専任技術者の常勤が必要不可欠です。常勤性の証明方法としては、健康保険証による証明が一般的です。取締役である奥様の健康保険は、役員報酬が低いこともあって被扶養者として扱われているということでしょう。このような場合、常勤性は認められるかどうかが争点です。
目次
被扶養者では常勤性は認められない
結論から申し上げますと、被扶養者では常勤としては認められません。よって、専任技術者として認められませんので、今回の場合は業種追加できないことになります。常勤性が認められるためには、扶養から抜け、被保険者とならねばなりません。この度の質問者の方については、様々な思惑があって、取締役である奥様の役員報酬を月額8万円としていることと思います。以下、これらを交えて説明したいと思います。
常勤とは
基本的な事項として、常勤について確認したいと思います。
原則として本社、本店等において休日その他勤務を要しない日を除き一定の計画のもとに毎日所定の時間中、その職務に従事している者がこれに該当する。
建設業許可事務ガイドライン 抜粋
上記の抜粋を専任技術者として解説すると、通常の社員と同様に毎日出勤し、営業所において専任技術者として常駐している方を指します。よくある質問に、週どれくらい出勤していれば常勤として認めれもらうことができるのかというものがありますが、一般的には週5勤務という回答になります。
所得税の非課税枠
現在(令和3年4月1日現在)においては、給与所得(例えばパート収入)が年間103万円以下であれば所得税が非課税とされています。よって、月の収入を8万円とすれば、年間96万円となりますので、非課税の範囲内といえます。生活の足しにと考え、この非課税の範囲内でパートをされている方も多いかと思います。
今回の相談者についても、この枠を利用したものと推測できます。なお、取締役については労働基準法の適用外ですので、最低賃金は適用外といえます。
健康保険の扶養の収入要件
全国健康保険協会管掌健康保(協会けんぽ)においては、以下の通り被扶養者の条件が設定されています。
被扶養者の認定
【収入要件】
年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
● 同居の場合 収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満(※4)
● 別居の場合 収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満
その他細かな要件はあるものの、同居の妻として年間96万円の役員報酬であるならば、上記の条件に合致すると言えます。被扶養者としてのメリットは健康保険料・厚生年金保険料がかからないことが言えます。
常勤者は被扶養者になれない
これまでの内容を整理しながら考えたいと思います。
まず、取締役は労働基準法の適用範囲外ですので、最低賃金の問題は発生しません。よって、週40時間働いたとしても、月額の報酬は8万円でも法的な問題はありません。よって、所得も非課税の範囲であることは問題ないと言えます。
次に、健康保険については、年間の給与所得が130万円未満ですので、被扶養者の条件の範囲内といえます。一見して、被扶養者として適正な範囲内なのではないか。これで常勤性が認められないのはおかしいと考える方もおられるかと思います。ここにそもそもの大きな勘違いがあります。
社会保険 被保険者
社会保険の適用事業所に常時使用される70歳未満(健康保険は75歳未満)の方は、国籍や性別、年金の受給の有無にかかわらず、被保険者となる。
「常時使用される」とは、雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受けるという使用関係が常用的であることをいう。
そもそも社会保険(健康保険)においては、働き方が常勤(常用社員の4分の3以上)であるならば、健康保険の被保険者となると定められています。つまり、役員報酬が被扶養者の範囲内の年額130万円未満であろうが、所得税が非課税であろうが、そもそも働き方が「常勤」であるならば被扶養者ではなく「被保険者」(本人が健康保険に加入する)であるという状態という訳です。
まとめ
建設業許可手続きにおいて、常勤性の証明方法としては、健康保険証のコピーを提出させることが原則となっています。健康保険証には、適用している法人名称が記載されますので、これをもって会社への所属・常勤性の判断とされるわけです。
今回の質問者様のように、節税・経費削減等の観点から、役員である親族に対して、その役員報酬を低めに設定されている経営者の方も多くおられるかと思います。ただし、役員報酬が低い場合でも働き方如何では、社会保険においては被扶養者ではなく、被保険者として適用せねばらなりません。
常勤者は被扶養者になれません。逆説的に被扶養者は常勤者といえません。
このような結論となります。