【財産的基礎要件】法人設立して建設業許可を取りたい。資本金は500万円必要?

質問事例:前

質問:
個人事業を営んでいます。この度、株式会社を設立して、建設業許可(一般)を取得したいと思っていますが、資本金は500万円で設立した方が良いと聞きました。自分としては、もう少し資本金を低くしたいのですが、どうでしょうか?

建設業許可の取得を見据えての法人設立の場合、資本金を500万円以上とすることで発生するメリットがあります。しかし、必ずしもこの選択がベストとは限りません。まずは、資本金の意味を理解頂いたうえで、建設業許可の財産的基礎要件を満たすために、資本金の金額がいくらが妥当なのか検討頂きたいと思います。

目次

資本金はなぜ500万円なのか

資本金とは

まずは、資本金について理解しましょう。
株式会社において、資本金とは株主が会社に対して出資した金額をいいます。法人設立時においては、資本金額=会社の資金力といえます。この資本金は、一般的な借入れなどと違い、返済する必要が無い金銭であり、逆に株主の立場から言えば、株の売却や株主配当、会社の清算結了等でしか還元されることはありません。

よくある質問に「資本金は常に預金口座に保管しておかなければならないのか。」というものがあります。回答は「いいえ」です。あくまで株主が出資した金額が資本金ですので、出資後は事業運営に使用されるべき資金となります。

財産的基礎要件

建設業許可の取得を考慮した場合、会社設立に際しての資本金額は500万円以上が良いとされるのはなぜでしょう。それは、建設業許可の要件の一つとされている「財産的基礎要件」に関係します。

建設業許可の財産的基礎要件は、「一般建設業許可」と「特定建設業許可」で異なります。会社設立直後に建設業許可を取得したいのであれば、設立時の資本金額において要件を満たすというのが一般的な手法です。

今回のご相談では「一般建設業許可」の新規取得を目指すため、財産的基礎要件は「自己資本500万円以上」「500万円以上の資金調達能力」のいずれかを満たす必要があります。どちらの要件で許可基準を満たすかによって妥当な資本金額の方針が決まります。

POINT

「自己資本500万円以上」「500万円以上の資金調達能力」いずれの基準で許可取得をするのかで、設立時の資本金額の方針が見えてくる。

いずれの要件でいくのか。それぞれの要件の特徴を理解しましょう。

自己資本500万円以上

当該要件は、直前決算日における自己資本が500万円を超えていれば財務要件を満たすというものです。会社の設立に際しては当然第1期目も終了していない訳ですから、設立時の「資本金(+資本準備金)=自己資本額」となります。つまり、500万円の資本金で設立していればこの要件を満たすことになります。

もう一つ知っておくべき特徴があります。それは、会社設立に際して500万円以上の額を資本金とした場合、建設業許可においては最初(第1期目)の決算日が到来するまでは、財務要件を満たした状態として取り扱われるという点です。

POINT

資本金500万円以上で設立すると、第1期目の決算日までは財産的基礎要件を満たすものとして取り扱われる。

ここが非常に重要になります。

500万円以上の資金調達能力

財産的基礎要件を満たす方法として、500万円以上の資金調達能力を示すことでも可能です。これは、ズバリ500万円以上の残高証明書(証明基準日から1ヶ月以内)を提出するか、金融機関から500万円以上の融資証明書を発行してもらいこれを提出するかのいずれかになります。

ここで、特筆すべき特徴としては、現在の資本金額や累積赤字の額等関係なく、ただ残高証明書を提出すれば足りるというところです。証明基準日から1ヶ月以内有効という期限はあるものの、例えば誰かからお金を一時的に融通していただいて一時的な残高証明書を取得しても良いのです。あくまで資金の調達能力なので、融通して頂けるだけの担保ができていれば良いのです。

POINT

預金残高証明の500万円は一時的な残高で良いとされている。

一時的な残高が作れる場合はこちらでも良さそうです。

なぜ500万円なのか

財産的基礎要件を見て頂いてわかるとおり、シンプルな話、500万円以上の資本金で会社を設立すれば要件を1つ満たせた状態になるということで、「資本金は500万円以上」ということになります。しかし、今回の相談者については、資本金額を低くしたいと考えています。建設業許可の財産的基礎要件は、500万円以上の預金残高証明書(資金調達能力)でもクリアすることができますので、必ずしも資本金500万円以上の資本金で設立する必要はなのです。

資本金の問題が解消したとして、いざ資本金の金額を決定しようとした場合、いくらが妥当なのか。次の項目で検討したいと思います。

自分に合った資本金額の検討

法人設立に際して、資本金額が大きければ大きいほど、会社としての基盤が大きいと考えられ、有利になると言われます。しかし、小規模事業者にとっては必ずしも有利に働くとは限りません。ここでは、自分に合った資本金額を検討するうえで、参考にして頂きたい事項を解説します。

背伸びした資本金

資本金は大きい方が良い。ならば会社設立に際しては自分の財産から限界まで出資しようと考える方もいます。これには注意が必要です。出資金(資本金となる財産)は出資後においては会社に帰属します。精一杯出資した後、やはり生活資金が苦しいので出資金の一部を自分の財布に戻したいと考えるかもしれません。しかし、これは会社からの貸付けという扱いになります。貸し付けには利子が発生しなければなりません。つまり気軽に出資金を手元に戻すことはできないのです。

生活資金を考慮に入れて資本金額を検討下さい。

資金不足は貸し付けで

資本金を少額に抑えた場合、そもそもの事業活動資金が不足する場合もあります。そんな場合は、個人から法人へ資金を貸し付けるという選択肢もあります。資本金として出資してしまうと、手元に戻すことは容易ではありません。しかし、個人からの貸し付けであれば、貸付金の返済というカタチで会社から手元に戻すことができます。
資金はあるが、あえて資本金を高く積まないという選択肢もあるわけです。

低すぎる資本金

現行法では、資本金は1円から認められています。つまり、会社の資本金を低額で作ることも可能というわけです。ただし、あまり低額はお勧めできません。資本金は会社の規模を示すものとして最初に目にする値です。この値が低ければ、会社の基盤が脆弱なのではと第三者は考えるでしょう。これが原因で取引に支障がでることも考えられます。建設業者の中にも、取引相手に資本金の条件を設定している業者もおります。資本金額は様々な角度からの検討が必要です。

1000万円以上の資本金

現行での消費税法では、資本金1000万円未満の法人は条件が整えば設立から2期分消費税の免税事業者として取り扱いされます。つまり、消費税分の得をすることになります。ただし、今後導入予定のインボイス制度が施行されればこのメリットは無くなりますのでご注意ください。

運転資金2ヶ月分

目安として、2ヶ月分の運営資金以上の資本金額が無難といえます。資本金は、会社の運転資金です。建設業界では、請負金額の支払いが月末締めの翌々月払いとされているところもあるでしょう。ここから考えると、運転資金2ヶ月分程度を資本金にすれば、キャッシュが切れず、外部からの資金調達なしに事業運営が可能となります。

建設業許可と資本金

実際にケースごとに資本金額を考えてみましょう。

資金繰りに余裕がない場合

ちょっと意外と思われるかもしれませんが、500万円の資本金で会社を設立されてはどうでしょう。
建設業許可の財産的基礎要件としては「自己資本500万円」で満たすことになります。例えば、工事代金の入金と下請け業者への支払いが同日であり、なかなか500万円以上の預金残高を超えることが難しい場合、法人設立の際に500万円以上の資本金ならば、第1期目の決算日までは資金が枯渇していても要件を満たすことができます。

資本金の出資は現金のみとは限りません。現在お使いの車両や建設機械、工具なども出資財産とすることができるため、これらを総合して500万円以上の出資財産を捻出するという方法も検討できます。

資金が潤沢な場合

この場合については、資本金額についてはさほど検討は必要ないでしょう。建設業許可申請直前に会社の預金残高が500万円を超えていれば問題ありませんので、資金の移動に余裕があるのであれば、あえて300万円の資本金で会社設立することも検討できます。

ただし、選択肢によっては建設業許可の取得時期が遅くなることが考えられます。というのも、資本金500万円以上で会社を設立した場合には、「自己資本500万円以上」の基準を利用して設立直後にでも建設業許可申請が可能となるのに対して、500万円以上の残高証明書で基準を満たす(資金調達能力)場合には、法人設立後にまず金融機関での審査を経て預金口座の開設を待たなければなりません。また、残高証明書の発行までに時間がかかるかもしれません。建設業許可を1日でも早い取得をお望みであれば、資本金は500万円以上で会社設立するのがよいでしょう。

まとめ

会社設立して建設業許可を取得しようとする場合は、資本金500万円以上で設立するのが簡単でしょう。ただし、必ずしも500万円以上で設立が必要というわけではありません。当事務所でも、実際資本金100万円~300万円で建設業許可を取得している業者の方は多くおります。

状況に応じて、資本金の金額を検討頂き、自身にあった最適な会社設立を行って頂ければと思います。

建設業許可の専門家
リンクス行政書士事務所

牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においては、何よりお客様の話を聞くことを重視し、最善の対応を常に心がけている。二児の父

関連記事

特集記事

広告

牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においてはヒアリングを重視する。二児の父

最近の記事

  1. 抜根工事は何工事にあたる?造園工事と土工工事の違い。

  2. 令和5年7月1日の建設業法施行規則の改正。ポイントは、専任技術者の要件緩和。許可が取れるかも?

  3. 突然、専任技術者がいなくなった。2週間以内で大丈夫?要件と届出期限の勘違い。

  4. 建設業許可における公共工事とは。建設業法で定める発注者の定義を知ろう。

  5. 令和5年1月1日の建設業法施行令改正施行。ポイントは、特定建設業許可の範囲変更と配置技術者の専任配置基準の変更。

  6. 解体工事の実務経験には、解体登録が必要。注意が必要な「電気工事」「消防施設工事」「解体工事」

  7. わかりやすい図解。特定建設業許可が必要な工事とは?

  8. 監査役は、経営経験も積めないし、専任技術者にもなれません。建設業許可と監査役の関係。

  9. 税金滞納。社会保険料未納。雇用保険料未納。建設業許可の更新はできるの?

  10. 資格は無いけど、早く独立して建設業許可を取りたい。10年間のモデルケースを検討。

ランキング

  1. 1

    少額工事でも請負契約書作成は義務。作ってないのは建設業法違反です。

  2. 2

    建設業法における解体工事の分類の仕方。必要な許可業種は?

  3. 3

    【建設業許可】建築一式は1500万円まで?リフォーム工事は大丈夫なのか。

  4. 4

    【建設業許可】請負金額500万円の基準は消費税込?税抜?根拠解説

  5. 5

    【許認可各種】建設会社がいれておくべき定款の目的を紹介。

  6. 6

    500万円未満でも建設業法違反!?無許可業者が注意する4つのこと

  7. 7

    わかりやすい図解。特定建設業許可が必要な工事とは?

  8. 8

    建設業許可の無い営業所では、500万円未満でも契約はNG!?

  9. 9

    注文者って誰?元請・下請の違いは?工事経歴書の疑問をピンポイント解説。

  10. 10

    1つの工事に複数の工事種類が含まれる場合の工事経歴書の記載ポイント

目次

TOP