「その他の建設工事の施工金額」は記載するべき。【直前3年の工事施工金額(様式第3号)】

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質問:
建設業許可の決算変更届を作成しています。その中で、添付する「直前3年の各年度における工事施工金額(様式第3号)」のその他工事は、記載しなければいけませんか。記載しないと問題ありますか。

建設業許可事務において何かと添付を求められることの多い「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」ですが、その様式にある「その他の建設工事の施工金額」の部分があります。

この「その他工事」の金額は許可を受けた工事業種以外の工事の総額を記載するところです。

正確に記載しようとすれば、年間の工事の中から許可業種にあたらない工事を抽出して集計する必要があります。

しっかりやろうとすれば、かなりの手間になるでしょう。

正直なところ、届出に際しては、記入が「0(ゼロ)」でも問題なく受け付けられるでしょう。

しかし、実は、この「その他の建設工事の施工金額」が非常に重要となる場合があるので、しっかり記載しましょうというお話しをしたいと思います。

ぜひ知っておいて損はありません。

目次

「その他工事」が重要な理由

「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」における「その他の建設工事の施工金額」(いわゆるその他工事)が重要な理由とは。

例えば、建設業許可の業種追加をおこなう際に、専任技術者を追加することになるのですが、この専任技術者は実務経験(10年間等)でその要件を満たすことが可能です。

例えば、はじめて許可を取得して10年が経過し、そろそろ他の工事業種の許可も追加したいと考えたとします。

10年経過しておりますので、その間しっかりと他業種の工事実績が積み上がっていれば、当然、専任技術者の要件を実務経験で満たすことが可能となるわけです。

ただし、ここで1つ重要なポイントがあります。

建設業許可業者は、毎年決算終了後4ヶ月以内に提出することが義務づけられている決算変更届(事業年度終了届)があります。

この「決算変更届(事業年度終了届)」の内容と、業種追加に際して証明しようとする「許可をもっていない工事業種の実務経験」の整合性がとれていますか。という点です。

専任技術者要件を実務経験で満たす場合、これまで10年間提出してきた決算変更届に添付されている様式第3号においては、許可業種以外の施工売上「その他の建設工事の施工金額」に妥当な金額が計上されているのが当然です。

業種追加申請に際して、実務経験(許可業種以外の業種)があるという申請内容に対して、過去に提出した決算変更届の整合性がとれなければ、申請が受け付けられない場合もあります。

何気なく作成してしまう「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」ですが、まさか10年後の業種追加の際に足をすくわれてしまうというケースもあるということです。

故に「その他の建設工事の施工金額」は重要なのです。

「その他の建設工事の施工金額」とは

「その他の建設工事の施工金額」とは、「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」の記載のうち、現在取得している建設業許可の工事業種以外の工事業種の施工金額を記載することになっている欄です。

前提として、この「その他の建設工事の施工金額」に計上される工事については無許可業種ですので、軽微な工事に該当する工事であることを念頭においておきます。

工事経歴書・財務諸表と連動する数値

この「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」については、必ずセットで作成する「工事経歴書(様式第2号)」の工事業種ごとの元請・下請工事の施工金額及び「財務諸表」の工事売上と数値が連動することになります。

むしろ、当該様式を提出する際には、連動する数値に差異さえ無ければ問題なく手続きは受け付けられることになります。

この時点では「その他の建設工事の施工金額」に数字が計上されているかどうかについては、さほど意識されるところではありません。

その他工事が「0」ということ

「その他の建設工事の施工金額」に金額が計上されていない状態は、すなわち建設業として「許可業種以外の工事の実績は無いですよ」と自己申告していることに他なりません。

そして、それは特段悪い状況というわけはでありません。

許可業種の工事のみを専業として営んでいるのであれば、事実と相違することはありませんので、届出自体も問題なく受理されることになります。

しかし、届出を振り返ってみれば、許可業種以外の実績は無く、よって実務経験もありませんということになります。

実務経験で業種追加する場合

ここでは、少し話題をかえて、「実務経験」について解説します。

建設業許可において業種追加をする場合、専任技術者を追加して、あらたな工事業種を取得することになります。

専任技術者の要件のうち「実務経験」が関係あるのは以下のパターンです

(1)実務経験10年
(2)指定学科卒業 + 実務経験3~5年
(3)資格+実務経験

実務経験10年

専任技術者の要件を、取得したい工事業種についての実務経験10年で満たすことができます。(「電気工事」「消防設備工事」では無資格での実務経験が認められない場合があります。)

実務経験の証明方法の基本的な考え方としては、「在籍期間(個人事業であれば経営期間)の証明」及び「その間の施工実績の証明」によって証明をことになります(建設業許可業者に勤務しているのであれば、許可業種をもっている期間については、「施工実績の証明」が省略できる場合もある。)。

指定学科卒業+3~5年の実務経験

専任技術者の要件を、取得したい工事業種に関係する学科(指定学科)を卒業していることをもって、実務経験3年~5年で満たすことができます。(「電気工事」「消防設備工事」では無資格での実務経験が認められない場合があります。)

この指定学科については、「建設業法施行規則第1条」で定められた関係学科を指し、手続き上は卒業証明などの提出をおこないます。(学科名等から内容が判断できない学科については、カリキュラムの提出などが必要です。)

指定学科の卒業を証明したうえで、取得したい工事業種について実務経験3年~5年を証明します。

実務経験の証明方法の基本的な考え方としては、「在籍期間(個人事業であれば経営期間)の証明」及び「その間の施工実績の証明」によって証明をことになります(建設業許可業者に勤務しているのであれば、許可業種をもっている期間については、「施工実績の証明」が省略できる場合もある。)。

資格+実務経験

専任技術者は、「建設業法施行規則第7条の3第1項第2号」における資格等によっても要件を満たすことができるのですが、その資格等の中でもさらに実務経験が1年・3年必要なものがあります。

実務経験の証明方法の基本的な考え方としては、「在籍期間(個人事業であれば経営期間)の証明」及び「その間の施工実績の証明」によって証明をことになります(建設業許可業者に勤務しているのであれば、許可業種をもっている期間については、「施工実績の証明」が省略できる場合もある。)。

整合性の問題

整合性

建設業許可業者が、自社での実務経験を掲げて専任技術者の要件を満たし、新たな業種を追加しようとする場合、建設業許可業者に提出義務がかされている決算変更届(決算年度終了報告)との整合性に気をつけねばなりません。

もっと言えば、「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」の「その他の建設工事の施工金額」との整合性です。

例えば、建設業許可業種「管工事」を取得していたとして、今回、専任技術者として自社での10年の経験で「防水工事」を取得しようとするとしましょう。

もちろん実務経験の証明として、自社での「防水工事」の裏付け資料を集めて審査官に提示することになるのですが、これまで提出してきた決算変更届における「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」の「その他の建設工事の施工金額」に「防水工事」(建設業許可業種以外の工事の施工金額合計)が計上されていなければどうでしょう。

自身で決算変更届において「管工事(許可業種)」以外の実績はありません。と報告しておきながら、業種追加の際には、じつはこれまで「防水工事」も施工してました。と申請するのは整合性に欠けます。それでは、これまでの報告は虚偽だったのかということになります。

訂正の是非

訂正は可能

では、業種追加の際に、この実務経験の証明と「その他の建設工事の施工金額」との整合性があわない場合、どのような対処法があるでしょうか。

これについては、実務経験を証明しようとする工事業種について、真実として工事実績があって、これまでの記載が間違っていた場合を前提として、決算変更届を訂正させて頂けるというのが現状です。

個人的には、このような非常に寛容な対応に甘えて、悪用されないことを心より祈ります。(実務では非常に助かります。)

業種追加に際しては、「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」の添付も必要となりますので、直前期までの実務経験を使用するのであれば、少なくとも過去3カ年分の決算変更届は訂正が必要です。(実際にどの時期まで遡って訂正が必要か。については各自治体・機関に確認する必要があります。)

経営規模等評価(経審)を受審している場合

「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」の訂正は、させて頂けるというのが現状です。

しかし、経営規模等評価(経営事項審査)を受審している建設業許可業者については、お話は別です。やはり公的な審査結果通知をもって入札参加資格を取得している以上、これを後に簡単に覆すという手続きは、なされるべきでないと考えます。

ついては、すくなくとも当事務所では経営規模等評価(経営事項審査)を受審している建設業許可業者の決算変更届については、過去の工事実績が明確であっても、この点についての訂正のお手続きは承っておりません。

許可申請に添付している場合

最初の許可新規申請の際にも直前三年の施工金額は添付していることでしょう。

こちらの訂正については、非常に難しいといえます。

許可申請内容に事実と相違する部分があるとなると、そもそもの許可の裁定までに疑義が及びます。

したがって、東京都などでは、申請の債に添付している様式第3号については、訂正が認められておりません。

注意しておくべき工事業種

「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」において、とくに慎重に工事実績を判断して「その他の建設工事の施工金額」を計上しておくべき建設業者についてご紹介します。

以下記載させて頂く工事については、その工事内容によっては、他工事業種となりうるものです。

型枠工事

「型枠工事」については、国土交通省の分類において「大工工事」とされます。「大工工事」という業種は木工造作を主なものとし、型枠においても木製を想定したものです。

しかし、昨今、型枠工事といっても木枠とは限らず、鋼製、アルミ製型枠もあり、およそ大工工事とはいえないものもあります。木製以外であれば、型枠工事については、「とび・土工・コンクリート工事」に該当する場合が多いのです。

また、型枠工事からコンクリートの打設までを施工する場合には、「とび・土工・コンクリート工事」となります。

現在、型枠工事を主力工事としている業者の方については、その工事内容を吟味し、必要であれば「その他工事」に「とび・土工・コンクリート工事」を想定して施工金額を計上しておくことをお勧めします。

ソラーパネル設置工事

ソーラーパネルの設置工事については、「電気工事」を考えるかと思います。しかし、屋根一体型のソーラーパネル設置工事は「屋根工事」に該当するとされます。

また、メガソーラーなどで、平地に太陽光パネルの架台の設置を請け負う場合には、「とび・土工・コンクリート工事」となります。

現在、ソーラーパネル設置工事において「電気工事」を取得している業者の方については、その工事内容を吟味し、必要であれば「その他工事」に「とび・土工・コンクリート工事」「屋根工事」等を想定して施工金額を計上しておくことをお勧めします。

壁面補修

壁面補修などを請け負う業者については、「防水工事」にも「塗装工事」にもなりえます。またクラックの補修などにおいては「とび・土工・コンクリート工事」も想定されます。

現在、壁面補修工事において「防水工事」や「塗装工事」単独で取得している業者の方については、その工事内容を吟味し、必要であれば「その他工事」に「防水工事」「塗装工事」「とび・土工・コンクリート工事」等を想定して施工金額を計上しておくことをお勧めします。

ユニットバス設置工事

ユニットバス設置工事については、必ず管接続工事が発生するため「管工事」に該当するものと考えがちです。しかし、内容によっては「とび・土工・コンクリート工事」に該当します。

現在、ユニットバス設置工事において「管工事」を取得している業者の方については、その工事内容を吟味し、必要であれば「その他工事」に「とび・土工・コンクリート工事」を想定して施工金額を計上しておくことをお勧めします。これは、システムキッチンを設置する業者についても同じことが言えます。

まとめ

その他工事は記載しておくべき

「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)」の「その他の建設工事の施工金額」については、わざわざ記載する必要性を感じない方もいるかもしれません。

しかし、この「その他工事」は、後に業種追加をする際に必要となる実務経験との整合性を考える上で重要な意味をもちます。

何気なく作成しがちな書類ではありますが、未来の業種追加を考える上で、手間であっても工事を精査し、着実に実績の今痕跡を残していくことが重要です。

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建設業許可の専門家
リンクス行政書士事務所

牧野高志

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建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においては、何よりお客様の話を聞くことを重視し、最善の対応を常に心がけている。二児の父

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建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においてはヒアリングを重視する。二児の父

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