直近の決算で赤字の債務超過。一般建設業許可の更新に影響はある?

質問事例:後
質問:
今年に一般建設業許可の有効期限を迎えるのですが、直前の決算期において大きな赤字となり、債務超過の状態となってしまいました。許可の更新に影響はあるのでしょうか。

建設業許可の取得の際には、財産的基礎要件を満たすことが必要というのはご存じ方も多いかと思います。今回は、とくに更新の際の財産的基礎要件の取り扱いについてのご質問です。更新は無事にできるのか。そんな疑問について解説していきたいと思います。

目次

一般では不問。特定では致命傷。

結論から申し上げますと、一般建設業許可では、債務超過であっても関係なく許可の更新ができます。一方の特定建設業許可では、債務超過の状態では更新ができません。

債務超過ってどんな状態

債務超過の状態とは、所持している資産の価値が、負っている負債額を下回っている状態を指します。簡単に言い換えるならば、財産をすべて売っても、借金を返しきれないよという状態のことです。財務状況としては良い状態とは言えません。

債務超過の状態であるかどうかは、法人の決算書に添付される貸借対照表で確認することができます。貸借対照表の「純資産の部の合計額」がマイナスになっていれば債務超過の状態であると言えます。

財産的基礎要件のおさらい

財産的基礎要件は、「一般建設業許可」と「特定建設業許可」で異なります。財産的基礎要件のうち「自己資本」という単語がありますが、これは貸借対照表の「純資産の部の合計額」とほぼ同義と覚えましょう。

「一般建設業許可」を新規で取得する際には、財産的基礎要件のうち、いずれか一つを満たせば良いので「自己資本=純資産の部の合計金額」がマイナス(債務超過の状態)であり、自己資本500万円以上という要件が満たせなくても、もう一つの「500万円以上の資金調達能力」が証明できれば財産的基礎要件がクリアできます。

「特定建設業許可」を新規で取得する際には、財産的基礎要件の4つの項目をすべて満たす必要があるため、自己資本がマイナス(債務超過)である以上、これを満たすことはできません。

では、次に更新の場合についてみていきましょう。

更新時における財産的基礎要件

建設業許可は、有効期間は5年間です。許可を更新しようとする際にも、財産的基礎要件にいて審査されることになります。ただし、更新する建設業許可が「一般建設業許可」か「特定建設業許可」かで大きく異なるのです。

詳細説明の前に、冒頭で述べた結論を再度記載しておきます。

許可更新時の債務超過
 一般建設業許可 → 不問
 特定建設業許可 → 致命傷

それでは、一般建設業許可と特定建設業許可のそれぞれの更新時の財産要件について確認してきます。

一般建設業許可の場合

(一般)財産的基礎要件

次のいずれかに該当すること。
(1)自己資本500万円以上あること
(2)500万円以上の資金調達能力があること。
(3)直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること

一般建設業許可を更新するうえで、(3)の要件が更新時に適用されるので、財産的基礎要件を気にしなくても良いという結論になります。
新規申請をするときには、自己資本が500万円以上あるか、500万円以上の残高証明書を添付できるかなど、苦心された方も多いかと思いますが、更新についてはこれがありません。

(一般)更新時に気にしなくて良い理由

上述において、財産的基礎要件の一つ「(3)直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること」について、更新の際に適用される要件であると述べました。

これは、更新のために設けられた規定といえます。
更新を迎えるにあたって、有効期間5年間を休業無く継続的に営業していた一般建設業許可業者は、財産的基礎要件を自然と満たすことになり、直近の決算書が赤字や債務超過の状態でいくらボロボロであっても更新は可能となります。
この規定は「継続して」という部分がまさにポイントです。通算では無く、継続ですので、過去に許可を有していたということでは、この要件は満たせません。再度言いますが更新用の規定と言えます。

なお、すでに倒産することが明白な場合においてだけは、更新が認められない場合もありますのでご注意ください。

POINT

一般建設業許可の更新申請において、財務要件は心配なし。

特定建設業許可の場合

一般建設業許可と異なり、特定建設業許可の場合は、新規許可と同様の財産的基礎要件が求められます。確認程度に再度、財産的基礎要件を紹介します。

(特定)財産的基礎要件

直前決算日において以下のすべてを満たすこと
(1)欠損比率が資本金の20%以下
(2)流動比率が75%以上
(3)資本金が2000万円以上
(4)自己資本が4000万円以上

注目すべき点は(4)です。自己資本がマイナス(債務超過)の場合には、これを満たすことができません。よって財産的基礎要件は満たせず、ひいては特定建設業許可を更新することができません。これが債務超過が致命傷といえる理由です。

なお、財産的基礎要件は直前決算日における財務内容において、判断されます。よって期中において大規模な増資などで財務状況を改善したとしても、更新前に決算が迎えられなければ判断は、前期の決算日時点での判断となります。つまりは、特定建設業許可においては、更新の直前に決算日を迎える期の財務状況にはあらかじめ気を配る必要があるのです。

(特定)財産的基礎要件を満たせない場合

特定建設業許可において、更新時に財産的基礎要件を満たせない。(満たせそうも無い)場合には、以下の選択肢が考えられます。

(特定)更新時に財産的基礎要件が満たせない場合
 許可の失効
 一般許可への切り替え(特般新規)
 増資等による財務改善と決算

特定建設業許可は更新の際には、十分な配慮がかかせません。

許可更新時に注意する点

今回は、許可の更新にまつわる質問ですので、加えて許可更新時の注意事項について、いくつか説明したいと思います。

要件に問題は無いか

建設業許可更新においては、財産的基礎要件の他にも重要な要件を審査されます。うっかりこの要件を満たしていないという事態になれば、許可の更新はもちろんできず、許可の要件を欠いた時点で失効となってしまいます。

常勤役員等(経営業務管理責任者他)

常勤役員等(令和2年10月より経営業務の管理責任者より名称変更)という人的要件があります。
うっかり役員からはずれていた。非常勤になっていた。役員任期が満了していた。などの場合は、要件を欠くこととなります。

専任技術者

専任技術者という人的要件があります。
既に退職していた。非常勤になっていた。営業所の異動があり後任の専任技術者が配置できていない。などの場合は要件を欠くことになります。

財産的基礎要件

これは、既に説明しましたが、特定建設業許可の場合は非常に重要です。

変更届出はすべて提出済みか

建設業許可の更新では、更新前に起こった変更事項をすべて届出した後で無ければ更新は受け付けられません。
特に失念しがちなのが、毎年度決算日より4ヶ月以内に提出義務のある決算変更届です。

変更届
・商号変更
・所在地の変更
・役員の変更
・資本金の変更
・決算変更届(毎年) etc

それぞれの変更届には提出期限が決められています。都度、提出期限内での提出を心がけておきましょう。

その他細かい事項についても気を配る必要があります。更新のポイントについてまとめた記事がありますので、気になる方はこちらをご一読ください。

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まとめ

今回のご相談では、一般建設業許可業者様ですので、赤字や債務超過などは気になさらなくて問題ありません。ただし、更新申請に際しては、他の許可要件も確認されますので、そちらにも配慮が必要です。

たかが、更新のお手続きと思われるかもしれませんが、しっかり準備をしてのぞみましょう。

建設業許可の専門家
リンクス行政書士事務所

牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においては、何よりお客様の話を聞くことを重視し、最善の対応を常に心がけている。二児の父

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牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においてはヒアリングを重視する。二児の父

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