質問:
建設業許可の申請を考えています。実務経験でも許可取得が可能だということですが、実務経験証明書に印鑑を押してもらうだけで大丈夫なのでしょうか。
まず、申し上げておきたいのが、令和3年1月より建設業許可申請事務における書類への押印が原則廃止されました。
以前には、第三者から証明する旨の印鑑の押印(例えば会社実印・個人実印)を実務経験証明書に頂くことができれば、それが担保となって実務経験として認めるという取り扱いになっていた審査機関もありました。
しかし、そもそもの押印自体が廃止されてしまったことで、その担保が無くなり、これまで不要だった、客観的な裏付け資料の提出を求めることとなった審査機関があらわれています。
つまり、この押印廃止で、実務経験の証明の難易度があがったといえます。(もちろん、以前から客観的な裏付け資料の提出を求めている審査機関もあります。)
さて、話を戻します。
今回ご質問頂いているのは、建設業許可における要件の1つ。「専任技術者」についてです。
この要件は、資格で要件を満たす方法のほかに、実務経験で要件を満たすことも可能です。
この実務経験に基づいて専任技術者の要件を満たそうとするのであれば、実務経験証明書の作成が必要です。
ただし、建設業許可の申請においては、この「実務経験証明書」の記載内容を裏付ける資料の提示が求められます。
この、実務経験証明は、自治体によって求められている裏付け資料が異なっているので、一律での説明ができません。詳細については、各自治体の建設業許可申請に関する手引き書を確認しなくてはなりません。
そこで、今回は、実務経験において、理解しておくべき基本的な考え方(3要素)と、いくつかの自治体による実務経験証明の裏付けについて説明したいと思います。
目次
実務経験証明は簡単じゃない
印鑑を押すだけじゃない(押印廃止)
冒頭でも説明致しましたが、令和3年1月より原則、書類への押印が廃止されました。実務経験証明書には、誰かの印鑑の押印が必要という考えが覆ったわけです。
建設業許可の専任技術者の要件を「実務経験」で満たそうとする場合が「証明が大変」であるという認識をもちましょう。(もちろん、条件がそろえば、証明方法がおどろくほど簡単な場合もあります。)
長年、建設現場で作業に従事されている職人さんにとって、実務経験で要件を満たすことは、それほど難しいことに聞こえないかもしれません。
しかし、建設業許可の難しいところは、実務経験証明書を作成して申請する場合に、委細された実務経験に対して裏付け資料も求められる点にあります。
実務経験の要件は満たしているが、実務経験を裏付け資料が残っていないという理由で建設業許可の取得を断念することもあるのです。
専任技術者の要件
専任技術者の要件を紹介します。
専任技術者(一般許可)
‣ 資格(工事業種ごとに異なる)
‣ 実務経験10年以上
‣ 指定学科卒業 + 実務経験3~5年以上
専任技術者の要件は、資格で満たすことができるほか、取得する業種(許可を取得している業種)の工事について、実務経験が10年以上有る場合、または指定学科(例えば建築学科など)卒業のうえ、3から5年以上の実務経験をもって満たすことができます。
ちなみに、専任技術者には、常勤性が求められます。専任技術者となる者が他社と兼務していたり、勤務実態が無い場合には専任技術者として認められませんのでご注意下さい。
実務経験の3つの要素
実務経験を証明していきたいとして、まず抑えるべき基本の3つの要素があります。
この要素を最初に頭に入れておくだけで、求められる裏付け資料が何を求めらているのかが理解できます。
実務経験の証明には、同期間について3つの要素(「在籍期間」「適法性」「実務内容」)を証明していくと考えると、裏付け資料がどのようなものを用意すべきか理解しやすくなります。
在籍期間
実務経験を積んでいる期間とは、ずばり働いている期間ということになります。
働くと言うことは、どこかの建設会社(個人事業主や家族経営)に務めていた(いる)か、自分で建設事業を経営していた(いる)か、のいずれかのパターンが考えられます。
そこで、実務経験の「期間」を裏付ける上で、まず実務を経験した会社に在籍(または自身で経営)していた期間を証明することになります。
在籍期間を証明する資料としで、最もわかりやすいのは、厚生年金の加入記録です。
会社において正社員として勤務している場合には、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務があります。したがって、この加入履歴を確認すれば在籍期間を証明することができます。
しかし、会社に勤めていたにもかかわらず、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していなかったという場合や、社会保険の適用外にある個人事業主(従業員5人未満)に勤めていたなどの場合もあるでしょう。
この在籍期間を証明する方法としては、各自治体で要求される資料が異なります。各自治体事の違いについても後述したいと思います。
適法性
実務経験においては、その実務が適正に積まれたモノであるかどうかも重要です。
ポイントとしては、以下の点です。
建設業法に違反は無いか
建設業許可を取得していない事業者での経験であれば、当然、その工事案件は軽微な工事(500万円未満等)である必要があります。
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実務経験の裏付けとして建設業法違反となる工事案件を提示したとしても実務経験として認められない場合や、これが原因で始末書(または罰則の適用)などが発生する場合があります。
事業に必要な登録は受けているか
実務経験を積む上で、勤めている会社が適法に事業をおこなうための事業者登録などを受けているかという点も重要です。
例えば、電気工事業者登録や、解体登録などがこれにあたります。
建設工事には建設業許可が必要では無い工事規模であったとしても、そもそも事業を営む上で必要な事業者登録が存在する工事業種があります。
事業者登録を受けずして当該事業を営んでいたのであれば、それは違法な営業となり、建設業許可申請の際に、実務経験として認められない場合すらあるのです。
作業者として必要な資格
実務経験を積むといっても、そもそも作業に従事するのに資格が必要な場合があります。
「電気工事」や「消防設備工事」がこれにあたります。
電気工事及び消防施設工事のうち、電気工事士免状、消防設備士免状等の交付を受けた者等でなければ直接従事できない工事に直接従事した経験については、電気工事士免状、消防設備士免状等の交付を受けた者等として従事した実務の経験に限り経験期間に算入
建設業許可事務ガイドライン 抜粋
つまりは、建設業許可においても実質、資格が無ければ専任技術者となれない業種もあるということです。
実務内容
在籍期間と適法性が担保できたとして、最後に必要なのは、当該期間において従事していた業務の内容が取得しようとする工事業種の内容と合致しているかという点です。
ちなみに、実務経験の「実務」については、建設業許可事務ガイドラインでは以下のように記載されています。
建設工事の施工に関する技術上のすべての職務経験をいい、ただ単に建設工事の雑務のみの経験年数は含まれないが、建設工事の発注に当たって設計技術者として設計に従事し、又は現場監督技術者として監督に従事した経験、土工及びその見習いに従事した経験等も含めて取り扱うものとする。
建設業許可事務ガイドライン 抜粋
実務の内容には、「設計」も含まれるという点がポイントですね。
経験した工事実務の具体的な内容については、「工事請負契約書」「注文書」「請求書(控)及びその入金記録」等で証明することになります。
これらの資料から従事した工事の内容が確認できることが必要です。
では、どのくらいの分量の資料を用意すればよいのか。という疑問が沸きます。
これについては、各自治体により差異があるため、個別に説明が必要となりますので、後述の自治体別の用意する書類を参照して下さい。
ちなみに、証明を受けたい技術者が裏付け資料を提出した工事に従事していたかどうかまでの詳細な資料は現在のところ求められていません。
都道府県で違う裏付け資料
実務経験においては、「在籍期間」「適法性」「実務内容」の3つの要素を各裏付け資料で証明することになります。
この裏付け資料ですが、取得する自治体(大臣許可・各都道府県知事許可)によって求められるモノに差異があります。
そこで、いくつかの自治体の裏付け資料について、実務経験の3要素に沿って紹介していきたいと思います。
東京都知事許可
在籍期間
東京都の手引きでは「証明期間の常勤を示す資料」という言い方をされています。
以下の資料(原本提示)を証明したい期間分用意することで在籍の期間を裏付けとすることができます。
個人事業主だった場合
・個人確定申告書(自身で経営)
個人事業を経営していた場合には、その期間の確定申告書。個人事業に従業員として雇われていたという場合には、「住民税特別徴収税額通知書」を各年度分。が裏付資料として考えられます。
社会保険を適用している個人事業主であれば、「厚生年金記録照会回答票」も考えられます。
(会社等に)勤務していた場合
・厚生年金記録照会回答票
・住民税特別徴収税額通知書※徴収義務者用
・法人税確定申告書(役員報酬明細)
etc
法人(会社)であった場合には、社会保険が強制適用となりますので、もっともスタンダードなものとしては「厚生年金記録照会回答票」が考えられます。
ただし、社会保険に未加入(本来は加入しなければならない)であった場合には「住民税特別徴収税額通知書」にて裏付ける方法もあります。
また、自身が役員(取締役)などである場合には、法人税の確定申告書内にある役員報酬明細にて十分な役員報酬の支払いが確認できれば、在籍期間として認められます。
適法性
そもそも実務において、資格が必要な「消防設備工事」「電気工事」については、無資格での実務経験は認められません。
これに加えて、事業者として解体工事業者登録(解体工事)や、電気工事業者登録(電気工事)を受けていなかった場合には、法令に抵触しているような工事はしていない旨の誓約書の提出が求められる場合があります。
実務内容
東京都においては、実務の内容を証明するにあり、在籍していたのが「建設業許可を持っている業者」と「建設業許可を持っていない業者」で大きく異なります。
建設業許可をもっている業者の場合
・(当時の)許可通知書
・許可申請書、変更届等
・許可番号等(東京都知事許可の場合)
建設業許可をもっている業者での証明の場合には、証明したい実務経験の業種と、取得していた建設業許可業種が一致する必要があります。ただし、許可を持っていたが、実際の工事実績が無い場合には、当然実務経験がありませんので、証明方法としては成立しません。
なお、上記の資料を提出する場合でも、すでに建設業許可が無い証明者である場合は、いつまで許可が存続していたかの証明が必要になります。(最後に提出した事業年度終了届・廃業届等)
建設業無許可業者の場合
・契約書
・注文書
・請求書+入金記録
許可を持っていない業者の場合には、証明したい期間分の上記の資料が必要となります。東京都では工事の種類にもよりますが、「1ヶ月1件程度」の資料の提示が必要となります。
当該資料から、日付、工事内容、金額、注文者などが確認できる必要があります。
千葉県知事許可
在籍期間
千葉県知事許可においては、在籍期間の裏付け資料については、手引きにおいて「年金加入記録等」という記載をされています。
具体的な書類の指定はありませんが、客観的に在職が確認できる資料の提出を求めるということです。
概ね、以下のような書類が裏付けとして使用が可能です。
個人事業主だった場合
・個人確定申告書(自身で経営)
・所得証明書(市町村発行)
個人事業を経営していた場合には、その期間の確定申告書又は、営業所得が確認できる所得証明書が有効な裏付資料となります。
勤務していた場合
・厚生年金記録照会回答票
・住民税特別徴収税額通知書※徴収義務者用
法人(会社)であった場合には、社会保険が強制適用となりますので、もっともスタンダードなものとしては「厚生年金記録照会回答票」が考えられます。
ただし、社会保険に未加入(本来は加入しなければならない)であった場合には「住民税特別徴収税額通知書」にて裏付ける方法もあります。
裏付け資料の省略
証明者が押印する場合は、在籍期間の裏付け資料は省略可
※疑義がある場合を除く
在籍期間について、千葉県では証明者の押印があれば、その裏付け資料の提出を省略することができます。ただし、証明内容に疑義がある場合について、裏付け資料の提出を求めることがあります。
適法性
そもそも実務において、資格が必要な「消防設備工事」「電気工事」については、無資格での実務経験は認められません。
加えて、手引きには「工事に必要な届出・資格を欠くなど適法でない工事は、経験として認められません。」との記載があります。
実務内容
千葉県においては、実務の内容を証明するにあり、在籍していたのが「建設業許可を持っている業者」と「建設業許可を持っていない業者」で大きく異なります。
建設業許可をもっている業者
・(当時の)許可通知書
建設業許可をもっている業者での証明の場合には、証明したい実務経験の業種と、取得していた建設業許可業種が一致する必要があります。ただし、許可を持っていたが、実際の工事実績が無い場合には、当然実務経験がありませんので、証明方法としては成立しません。
なお、許可通知を提出する場合でも、すでに許可が無い証明者である場合は、いつまで許可が存続していたかの証明が必要になります。(最後に提出した事業年度終了届等)
建設業許可をもっていない業者
・契約書
・注文書
・請求書+入金記録
許可を持っていない業者の場合には、証明したい期間分の上記の資料が必要となります。千葉県では工事の種類にもよりますが、「1年間1件程度」の資料の提示が必要となります。
まとめ
実務経験は3要素の証明
実務経験の証明においては「在籍期間」「適法性」「実務内容」の3つを証明することで、認められます。
これについては、現在のところ証明者の印鑑をもらうだけでは、認められない自治体が多くあります。
自治体によって求められる裏付け資料は異なりますが、上述した基本的な3要素にそって考えれば、用意すべき資料も理解もしやすいかと思います。
建設業許可においては最も重要な肝となる部分の人的要件(専任技術者)。十分に準備が必要となります。
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