建設業許可のデメリットを知ろう。取得の準備中に知っておきたい5つの事項

建設業許可

建設業許可の取得によって、建設業者に様々なメリットを受けることになります。しかし、その反対に許可を取得することによって発生するデメリットもあります。

今回の記事では、建設業許可取得を準備されている建設業者様に向けて、建設業許可を取得した後のデメリットを含めた、取得の準備期間だからこそ考えていただきたい事項についてご説明したいと思います。

目次

建設業許可5つのデメリット

建設業許可業者は、大規模な工事を受注することも可能になります。許可を得るということは、社会的信用が増すこととなる一方で、社会的責任が大きくなります。

それ故に、建設業許可業者については建設業法において様々な義務を負うこととなります。今回はこれを5つのデメリットとして紹介します。

● 許可後の手続き
● 丸投げ禁止
● 配置技術者制度
● 営業所の契約制限
● 財務状況の開示

許可後の手続き

分厚い申請書を作成し、必要な書類を集めて、やっと建設業許可を取得したとします。建設業許可業者については、引き続き、取得した建設業許可を維持するために必要な手続きを適宜おこなう必要があります。事務手続きが増えることがデメリットの一つと言えます。

【建設業許可後の手続き】
1 毎年の決算変更届(決算後4カ月以内)
2 建設業許可の更新(有効期間5年)
3 各種変更手続き(変更毎に提出)

毎年の決算変更届(決算日後4ヶ月以内)

建設業許可業者については、毎年決算日より4ヶ月以内に前年度の工事実績、財務諸表、納税証明書等を添付した決算変更届(決算年度終了届)を提出する義務があります。こちらの届出を怠っていた場合には罰則も適用されるのですが、何より5年ごとの許可期限満了の際に提出されていない年度があれば、許可更新手続きが受け付けられない事態が発生するという点に注意が必要です。

建設業許可の更新(有効期間5年)

建設業許可には許可期限が5年と定められています。許可を存続させるために許可の更新手続きを行う必要があります。許可を切らしてしまったという失敗談は多くあります。最近では、許可期限前に行政機関から案内がある自治体が増えましたが、それでも自社で許可期限は管理する必要があるのです。

更新の手続きに際しては、許可取得時からの毎年の決算変更届や、各種変更事項に係る変更届を怠っていたものをすべて提出しておかねばなりません。状況によっては更新に支障を来す場合もあります。

各種変更手続き(変更毎に提出)

建設業許可を取得した後、届け出るべき事項に変更が生じた場合には変更届の提出が必要となります。

例えば株式会社でいえば、役員を追加した場合、商業登記による役員追加登記に加えて建設業許可の変更届の提出も必要となります。届け出事項に応じて、提出期限が異なりますので、内容によっては迅速な手続きが求められます。

丸投げ禁止

建設業法によって、建設業許可業者は、工事の一括下請け(いわゆる「丸投げ」)が禁止されています。

 建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。

建設業法 第二十二条第1項

ここで言う「建設業者」は「建設業許可業者」のことです。
建設業許可を取得していない業者であれば、受注した工事を下請け業者に丸投げしてしまうことも可能です。しかし、建設業許可業者は最低でも必ず配置技術者を現場に配置した上で現場の管理等を行わなければなりません。ここでのポイントは、いわゆる軽微な工事(請負金額500万円未満等)であっても、建設業許可業者が受注した以上は丸投げ禁止である点です。また、丸投げ禁止によって、人数に限りのある現場の職人さんの配置に、配慮する必要がでてきます。後述しますが、配置技術者制度がまさにこれに深く関連します。

ちなみに、丸投げ禁止には、但し書きがあり、施主と元請業者で書面の合意があれば、丸投げも許容されることとなっています。ただ、あまり一般的とは言えません。
この「工事の丸投げ」については、発注者の信頼を裏切る行為として、国土交通省では特に厳正な処分(営業停止処分等)を想定しています。

配置技術者制度

 建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。

建設業法 第二十六条第1項

上記の条文は、いわゆる配置技術者制度の一部を示した条文です。

配置技術者制度とは、建設業許可業者が請け負う工事現場ごとに、一定要件を満たした配置技術者(「主任技術者」又は「監理技術者」の総称)を配置しなければならないという制度です。
当該制度により、建設業許可業者は、多くの現場を同時期に施工する場合には複数人の一定要件を満たす技術者を雇い入れておかねばなりません。昨今の建設業において人材の確保は切実な問題であることを考えると、適正な事業運営を考えると大きな課題となりえるといえます。

ちなみに、一定要件とは、資格や実務経験等を有する者で、建設業許可の要件である「専任技術者」に該当する要件を備えている者と理解してください。建設業許可業者は、営業所で技術管理にあたる専任技術者と、専任技術者に匹敵する資格や実務経験を有する配置技術者の2名がいて、適正な事業運営が可能となるのです。

営業所の契約制限

建設業許可申請では、その制度上、建設業許可における主たる営業所に加えて、専任技術者等を配置することにより従たる営業所を許可登録することができます。これにより、許可登録された営業所では、許可を受けた業種について軽微な工事以上の工事案件についても、営業所の権限で見積もりや契約を締結することができるようになります。

反対に、許可登録されなかった営業所については、会社として許可を受けている工事業種については、例え軽微な工事であっても見積もりや、契約締結することができません。

例えば、営業所が複数ある業者が建設業許可を取得した場合、専任技術者が配置できない営業所では、いままで取り扱うことができた工事案件の契約が扱えなくなる場合がでてくるということです。

財務状況の開示

建設業許可業者には、毎年、決算日から4ヶ月以内に決算変更届(事業年度終了届)を提出する義務があります。決算変更届には、前年度に施工完了した工事経歴や財務諸表が添付されることとなります。
この決算変更届が閲覧対象書類となっています。つまり、建設業許可業者の財務諸表は、閲覧を希望すれば誰でも見ることができるということです。

当該閲覧制度を利用して、企業情報を収集している業者は建設業許可業者の財務内容の情報を取得しています。制度としては、注文者保護のためですが、その実、競業企業などへも情報は提供されることになります。

建設業許可のメリット

上記において、建設業許可のデメリットを紹介しました。それでも、建設業許可の取得メリットは非常に大きいものです。デメリットを考慮しつつ、メリットを最大限に生かす運営を考えるべきなのです。

● 受注可能な工事規模が拡大
● 金融機関での融資額の上昇
● 公共工事への入札参加
● 外国人実習生の受け入れ
● 営業アピールの強化

建設業許可を取得していなくても軽微な工事であれば受注は可能です。ただし、許可を取得していない場合には、発注する側にとってもリスクを伴う場合があります。建設業法では、無許可業者への違法な工事の発注は発注者にも罰則がもたらされます。適正な範囲の発注を心がけていたとしても、違法な発注となってしまう場合があることを考えると、可能であれば許可業者へ発注したいというのが本音なのです。

準備中に考えたいその他事項

建設業許可の取得準備中であれば、必ず検討頂きたいその他の事項をご紹介します。

法人か個人事業か

現在、個人事業を営んでいる方で建設業許可の取得を準備している方も多いでしょう。建設業許可の取得に当たっては、法人化してから取得すべきか否かという質問も多くあります。

従来、建設業許可を取得している個人事業主が法人化した場合、再度新規申請を行う必要があったため、建設業許可に空白期間が生じていました。しかし、令和2年10月施行の法改正により、「事業承継」が新設され、許可空白期間無く建設業許可を承継することができるようになりました。

ついては、法人化してからの許可取得を比較的強めに勧めておりましたが、現在ではどの時点で法人化すべきかというご質問に対しては様々な状況を考慮する必要があります。

取得すべき業種はどれか

建設業許可は29業種に分けられています。取得した業種の工事について軽微な工事を越える工事が受注可能となるわけですが、ここで注意が必要です。取得しようと準備している業種は、はたして現在の工事と合致する業種なのでしょうか。

取得する業種を誤れば、軽微な工事を越える工事は受注することができません。また、業種ごとに許可要件は異なりますので、せっかくの準備が無意味なものになってしまうことも考えられます。

正確な業種の判断については、専門家の行政書士や行政庁窓口を利用して問い合わせてみるのもよろしいでしょう。

取得までにかかる時間はどのくらいか

建設業許可の申請準備中においては、いつごろ許可の取得が可能かという点が最大の関心事ではないでしょうか。建設業許可において、その要件については非常にシビアで、1日でも経験年数が足りなければ申請することができません。

予定している取得方法で問題がないか十分に検討したうえで、準備期間がどの程度か見定める必要があります。
また、建設業許可は申請から1~3ヶ月程度で許可がおりることになるのですが、これは申請先の行政庁によって目安が異なります。

この目安となる期間を「標準処理期間」といいます。この標準処理期間は各行政庁の窓口や手引き書で確認することができます。

自分でやるか行政書士に依頼するか

建設業許可申請については、行政書士に依頼して申請することも可能です。自身の手間と、依頼したときの費用を比較して、検討しましょう。いわゆる費用対効果というものです。

なお、建設業許可については、許可後においても定期的にお手続きが発生するため、依頼する業者が多いのが現状です。

まとめ

デメリットも積極的に把握しよう

以上、建設業許可のデメリットに加えて、考慮頂きたい事項を列挙してきました。建設業許可申請を準備するなかで、しっかりとメリット・デメリット等を把握しつつ、許可取得後も法令を遵守しながら企業運営をおこなって頂きたいと考えます。

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建設業許可の専門家
リンクス行政書士事務所

牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においては、何よりお客様の話を聞くことを重視し、最善の対応を常に心がけている。二児の父

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牧野高志

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建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においてはヒアリングを重視する。二児の父

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