質問: 神奈川県知事許可で内装仕上げ工事を取得しました。今回、埼玉県の現場で500万円以上の工事を受注したいと思ってます。これは、大臣許可というのが必要なのですか? |
目次
知事許可で県外現場の受注も可能
建設業許可は日本全国で効力がある
建設業許可業者については、許可された業種の工事であれば、日本国内どこの現場の工事でも許可の効力が及ぶことになります。
ご質問に回答するならば、神奈川県知事において内装仕上工事業の建設業許可を受けた場合でも、埼玉県内での請負金額500万円以上の内装工事を受注することが可能です。
もちろん、現場が北海道や沖縄県においても同様です。
知事許可と大臣許可の違いとは
それでは、ご質問にもありました「大臣許可」と「知事許可」とはどのような違いがあるのでしょうか。
建設業許可においては、「主たる営業所(通常は会社の本店等)」のほかに、「従たる営業所」を複数届け出ておくことができます。
この「主たる営業所」「従たる営業所」が同一の県内(都道府県)におさまっている建設業者は当該県(都道府県)において「県知事許可」(都道府県知事許可)を取得することになります。
また、この「主たる営業所」「従たる営業所」が異なる県(都道府県)にまたがって設置されている建設業者は国土交通大臣許可(いわゆる「大臣許可」)を取得することになります。
つまり、「県知事許可」と「大臣許可」は受注できる工事の規模や工事現場の所在の違いというわけではなく、営業所の所在場所による違いと覚えて頂きたいのです。
わかりやすく事例で言えば、神奈川県内に10営業所を設ける建設業許可業者は「知事許可」、東京都と神奈川県にそれぞれ1営業所(合計2営業所)を設ける建設業許可業者は「大臣許可」となります。
全国に効力が及ばない許認可等もある
建設業許可においては、許可を取得すれば日本国内どこの現場の工事でも許可の効力は及びますが、許認可によってはそうではないものもあります。
例えば、建設業と関係が深い「産業廃棄物収集運搬業許可」(他人の産業廃棄物を運搬して運賃をもらう営業に必要な許可)については、各都道府県ごとに許可を取得する必要があります。
また、「解体工事業者登録」(解体工事業を営むために必要な登録)については、解体現場が所在する都道府県ごとに登録を受けておかねばなりません。
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知らないと怖い、許可後のルール
建設業許可において施工現場の所在に制限は無いと理解頂き、一安心といったところでしょうか。
ただし、これで安心するのはまだ早いのです。
以下、建設業許可を取得された建設業者の方に、ぜひ知っておいて頂きたいルールをご紹介します。
業種が混在する工事の場合
建設業許可は全29業種あります。建設業許可を取得された際には、いずれかの業種(または複数業種)を取得されたことと思います。
知ってのとおり、建設業許可を取得すれば許可を受けた業種の工事について500万円以上(軽微な工事の規模を越える工事)の案件を受注することができるようになります。
ここで考えましょう。
例えば、取得されている許可業種を含めて、様々な業種が混在する工事については、受注可能なのか。
建設業法においては、1つの工事は29業種のいずれかに分類されます。
その判断方法として「主たる工事」と「附帯(ふたい)工事」という考え方があります。請負契約の目的となる工事を「主たる工事」といい、この「主たる工事」を完成させるために必然的に発生する工事を「附帯工事」といいます。
工事業種の判断においては請け負った工事の「主たる工事」の内容で29業種のいずれかに分類判断します。
つまり、受注した工事の「主たる工事」が、取得した工事業種と異なる場合は、無許可営業として建設業法違反となるのです。許可を得た業種が含まれていても「附帯工事」にあたるものであれば許可の意味がありません。
注意が必要です。
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無許可の営業所では契約ができない
建設業許可を取得する場合、「主たる営業所」のほかに「従たる営業所」を届け出ることができます。ただし、ただ届け出れば良いわけではなく、建設業許可上の営業所は「令三条使用人」と「専任技術者」を配置することで届け出ができるのです。
よって、この「令三条使用人」と「専任技術者」を配置することができない営業所については建設業許可上の営業所として届け出ることができません。(営業所として許可を得ることがきないということです。)
建設業許可上の営業所は届け出をおこなうことで、「許可を受けた業種」の受注契約をすることができることとなります。逆に、届け出をしていない営業所では「許可を受けた業種」の契約を行うことができなくなります。
会社として建設業許可をもっていない場合は、どの営業所でも500万円未満(軽微な工事)であれば請負契約を締結することができま。しかし、許可を取得した後は、許可をもっていない(届け出ていない営業所)では500万円未満(軽微な工事)であっても「許可を受けた業種の工事」については契約を締結することができなくなります。
いままでどおりの運営とはいかなくなるかもしれません。注意が必要です。
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特定建設業許可が必要な工事
ご取得頂いている建設業許可の区分が「一般」であるならば注意が必要です。
御社が施主から工事の依頼を受ける元請の建設業者である場合、その工事において総額4000万円以上(建築一式工事の場合は6000万円以上)下請け業者へ外注する工事については「特定」区分の許可が必要になります。
建設業許可において「一般」と「特定」の区分を理解し、受注可能な案件か見極める必要があります。
大臣許可のメリット
前述において「知事許可」と「大臣許可」の違いは営業所の所在であると説明しました。
なんだそれだけか。と思われたでしょうか。
しかし、規模の大きい会社は大抵「大臣許可」となっています。
ついては、最後に大臣許可のメリットについてもご理解頂きたいのです。
大臣許可は複数の都道府県に営業所を設置することになります。少なくとも営業所が2つ以上あるということですが、これにはメリットがあるといえるでしょう。
見積もりや契約事務が各営業所で
建設業許可の取得は、大きな営業ツールにもなります。
営業所はあるが、建設業許可上の届け出が無いために見積もりや契約ができないというのであれば、そこに所在する意味がありません。大臣許可に限らないのですが、その地域に営業所を設けることで、各地の顧客と迅速な決裁ができるというのはメリットではないでしょうか。
それが全国規模ともなれば言うまでもありません。
公共工事の入札で地元企業として参加
複数の自治体に営業所を設けるということは、公共工事の入札において地元企業として入札に参加することができるというメリットがあります。
入札参加には、案件ごとに様々な条件が設定されます。その一つに地元企業または地域内に営業所をかまえる事業者に限定して入札参加を認める場合があります。
自治体としても地元企業に受注してもらった方がよろしいでしょう。公共工事の受注に有利に展開する場合があります。
まとめ
建設業許可は全国OK
以上、知事許可と大臣許可の違いについて説明いたしましたが、今回のご相談についてはもちろん県外の工事も施工可能とご理解いただけましたでしょうか。
一般的には大臣許可のほうが許可の上位なのではないかと思われている方もいらっしゃるかと思いますが、そうではありません。あくまで、営業所の所在地による管轄の違いと理解しましょう。
ただし。大臣許可は営業所を維持するだけの資格者が常勤していることを意味しますので、その意味では規模的なアピール、また地元企業として公共工事の入札に参加できるなどのメリットはあります。
建設業許可の区分を理解し、適切な事業運営を心がけましょう。
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