注文者って誰?元請・下請の違いは?工事経歴書の疑問をピンポイント解説。

実務知識

建設業許可事務において、新規申請、業種追加、決算変更届(事業年度終了報告)等、なにかにつけて添付することが多い「工事経歴書(様式第2号)」の書き方については、多く質問を頂きます。

今回は、工事経歴書の中でも「注文者」「元請又は下請の別」の部分について解説していきたいと思います。工事経歴書の作成にお役に立てば幸いです。

目次

工事経歴書(様式第2号)

工事経歴書書(様式第2号)とは、建設業許可を取得している業種(申請する業種)ごとに直近の終了決算年度内で「施工の完了した工事」「未成工事」のうち主な工事案件について記載する様式です。

経営規模等評価(経営事項審査)申請を受審する建設業許可者とそうでない業者で工事の羅列方法が異なります。その中でも経営規模等評価申請(経営事項審査)をうけない建設業許可業者の作成方法については、さらに許可自治体ごとに記載方法が若干異なりますので注意が必要です。

とりわけ、経営規模等評価申請(経営事項審査)をうけない建設業許可業者においては、スムーズに手続きをおこなえればなによりでしょう。

今回は、工事経歴書の中でも「注文者」「元請又は下請の別」について、説明したいと思います。

注文者とは誰のこと?

直接の注文者を記載

工事経歴書に記載すべき「注文者」とは、対象となる工事の請負契約の相手方を記載します。

御社が施主からの依頼で工事を受注した場合には、請負契約を施主と締結しているわけですから、その相手方、すなわち注文者は「施主」ということなります。

また、御社が二次下請業者であった場合には、一次下請業者との間での工事請負契約によって工事を施工するわけですから、注文者は一次下請業者ということになります。

間違えポイント

注文者は施主とは限らない

よくある間違いとして、下請け業者として工事の施工にあたった工事について、この工事の「注文者」に施主を記載してしまうパターンです。

工事としての「発注者」は当然「施主」ですが、工事経歴書の「注文者」はあくまで請負契約の相手方を記載します。

つまり、下請工事業者として現場に入る場合には、工事経歴書の「注文者」に記載すべきは、元請工事業者の名称となります。

もちろん、御社が施主からの依頼による元請工事業者である場合には、記載すべき「注文者」は施主となります。

オーナーではなく不動産管理会社が注文者

ビルの保守・メンテナンス工事などを行う場合には、建物の所有者(オーナー)「施主」との間に不動産管理会社がはいって工事を注文しているケースもよくあります。

この場合、御社が不動産管理会社からの注文で工事を施工する場合、工事経歴書の記載は、不動産管理会社が「注文者」となります。

記載すべき「発注者」は施主(所有者・オーナー)ではないか。と思われる方もいらっしゃるでしょう。不動産管理会社はあくまで代理人なのだからと。

これに対するヒントが、建設業法の記載にあります。

この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。

建設業法 第2条第5項

建設業法では言葉の用法として「発注者」と「注文者」を区別しています。

条文を要約すれば、「発注者」とは「施主」を指し、「注文者」については言及が無く、あくまで「注文を発した者」という一般的な用語の使い方をしています。

これに基づき考えると、不動産管理会社が発注する工事については、「発注者」は「施主(オーナー)」であるが、これを代理権限を受けて注文する(契約締結する)不動産管理会社が工事経歴書に記載すべき「注文者」といえます。

元請又は下請の別とは?

施主(又はその代理人)からの案件が元請

工事経歴書には「元請又は下請の別」を記載することになります。

これについては、施主(又はその代理人)との工事請負契約をする立場の元請業者として工事を受注するのであれば、「元請」。一次下請、二次下請業者として工事を受注する場合には「下請」と記載します。

管理会社からの発注

不動産管理会社から工事の発注を受ける場合には注意が必要です。

建物の所有者(オーナー)からではなく、オーナーとの不動産管理契約に基づいて不動産管理会社からの工事の発注の場合には、「元請」工事に該当します。

不動産管理会社は、建物所有者を代理して工事の発注をしています。

ついては、不動産管理会社は建設業者ではありませんので、このような工事を受注した場合は、工事経歴書に「元請」と記載します。

ただし、不動産管理会社が建設業者を兼ねる場合もあります。この場合については、御社は下請業者となりますので、工事経歴書には「下請」と書く必要があります。

このあたりを厳密に判断するためには、所有者(オーナー)と不動産管理会社の原契約の内容を知る必要があります。

リース会社の発注

最近は、大規模な設備を施設に導入する際は、リース契約とする場合が増えています。

リース契約においては、対象の建物と設置する設備機器の所有者が異なることになります。

通常、リース契約に基づく工事については、リース会社から発注されることが多いです。

リース会社は設備の所有者ですから、所有者からの設置依頼であれば元請け工事と考えられなくはありません。

この点については、様々に考察されるところですが、以下、建設業法の主旨から考えたいと思います。

委託その他いかなる名義をもつてするかを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する。

建設業法 第24条

建設業法では、実態として建設工事を請負うのであれば、それは、どんな名義の契約でも工事請負契約であると規定しています。

では、リース契約に請負事実が含まれているか考察します。

ユーザーからしてみれば自身の建物にリース会社所有の設備を設置(工事の完成)をリース会社に対して依頼しているわけですから、この部分において請負契約が成立すると考えるのではないでしょうか。

何か工事の不備があれば、ユーザーはリース会社に責任を問うと考えられます。

なお、建設業法にある「報酬を得て」については、一般的に月額のリース料に工事費も含めて計算されているのでれ、無報酬ということはありません。

リース会社からの依頼で工事をする場合は「下請?」であるといえなくもなさそうです。(個人的な考え)

ただ、これについては、実際は「元請」として処理されることが多いです。そもそもリース会社が建設業許可を取得しているケースは非常に希ですので、「元請」でなければ困る。というのが現状でしょう。

例えば、これが「ユーザー」「リース会社」「建設業者」の三者間契約によるリース及び工事請負契約であった場合は、「ユーザー」「リース会社」の双方から請負契約を直接依頼されている立場なので建設業者が紛れもなく「元請」となります。

こちらをはっきりさせるためにも、リース会社さんにおいては、三者間の契約書をお勧めします。

工事経歴書への記載の注意

個人名はイニシャルで

実際に注文者名を工事経歴書に記載するとき、この注文者が個人であった場合にはイニシャル等で個人の特定できないように記載することになっています。

記載の際は十分に注意しましょう。

直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)

今回の元請・下請の判別は、同じく添付様式の「直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式3号)」の数字と連動することになります。

当該様式と工事経歴書の異なる点といえば、元請工事をさらに「民間」発注の工事か「公共」機関の発注工事かで分けて集計している点です。

工事経歴書の作成にあたって、工事実績を集計する際には、当該「様式3号」の数値も見据えて、元請工事を「民間」「公共」にわけて集計しておくと効率が良いでしょう。

まとめ

注文者は直接の契約相手

工事経歴書の作成にあたって、「注文者」と「元請又は下請の別」について説明しました。

「注文者」については直接契約の相手方の名称を記載します。

「元請」「下請」については、注文者が「施主」(又はその代理人)の場合が「元請」。一次下請、二次下請業者として工事に入る場合は「下請」と記載します。

単純そうな箇所で、建設業許可の手引きを見ても説明が薄い部分です。

しかし、きちんと整理しようとすると悩ましい点がいくつもあるかと思います。

正確に理解して工事経歴書へ記載するよう心がけて頂ければ幸いです。

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建設業許可の専門家
リンクス行政書士事務所

牧野高志

牧野高志

建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においては、何よりお客様の話を聞くことを重視し、最善の対応を常に心がけている。二児の父

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建設業許可を専門とする行政書士。15年以上の実務で得た建設業に関する知識、経験を武器に、難解な問題の対処にあたる。業務においてはヒアリングを重視する。二児の父

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